おはようからおやすみまで

足の臭さには少々自信がございます。

安住の地、トイレ

女に生まれてよかったなと思う。

 

理由はいろいろあるが、その中の一つはトイレが個室であることである。

殿方のように一列に並んで局部を煌々とした電気の元に放り出すなんて仕切られた空間で用を足してきた私からすれば正気の沙汰ではない。

殿方に聞くと他の人のモノなんかみないと9割が回答するのだがそれは本音かと問いたい。
私だったら見る。絶対見る。
だって自分がどんなもんか気になるじゃん。普通なのかおかしいのか。
生理現象をこなしながら日常的にサンプルが集められるなんて超効率いい。
絶対見るよそんなの。

私みたいなやつ絶対いると思う。それも結構な数。
つまり殿方のナニは生理現象をこなすたびに他人のサンプルに加えられる危機にさらされているのである。他人のナニを見るのは良くても自分のナニを見られるとかやっぱりイヤだしね。
ナニは見たいけどナニは見られたくない。
ナニを放り出したその先での攻防戦。
いかにさりげなく自身のナニを隠しながら他人のナニを盗み見るか。

自分が殿方に生まれたらこんな思いをしなければならなかったのか。しかも頻尿なのに。

だから女に生まれてよかったなと思う。


しかし先日そんな私の平和を脅かす出来事が起こった。

昼下がり。トイレで用を足し始めたその瞬間に起こった。

「もしもしお疲れ様です、〇〇です〜」


それは私から安らぎを奪うには十分すぎる一言だった。


トイレで電話?は?まじで何考えてんのお前。

こっちは!今まさに!放尿してるっつーの!!


頻尿のためかなんのためかは知らないけど結構な勢いで放尿してるんですけど!!!

突然かかってきた電話で慌てて出たけどトイレだからと気を遣ってすぐに外に出て話してくれるのかと思いきや普通に話を続けている。

「3時ごろになると思います〜」

個室の外の彼女は自身の到着予定を知らせる。
その間も私は排泄真っ只中。絶賛放尿中。そこそこ音出てる。

電話越しに尿の旋律聞こえたらどうしてくれるの?ねえ?

ここはトイレ。プライバシーが完全に確立された個室。与えられたはずの安心感。
今やそれが脅かされている。
やたら足元が滑る和式でなかなか終わらない尿をしたあの時以来の焦燥感。
依然として彼女は電話中。

やむを得ないので急遽尿を中止する。
彼女の電話が終わるのを待つ。

「タジマさんは〜」

タジマ、今すぐ電話を切れ。私が今それを許可する。返せ、私の安住の地を。

トイレで出た電話だからすぐに終わるだろうと私の膀胱、そして尿道は彼女の最後の配慮に期待している。
タジマ。切れ。
私は残尿感を傍らに静かに電話が終わるのを待った。

それから二、三言話してようやく電話は切れた。

尿を止めて30秒。私、真剣な目をしていたと思う。
ようやく尿ができる。

そう、できるのだ。

なのに。

尿意……、あなたは一体どこへ?
抱えてた残尿感は今や微塵にも感じない。

仕方がないのでそのまま尿を取りやめ私は個室を後にした。


今まで個室があるから安心だと思っていたが、個室であるがゆえに思いやりに欠ける部分もあるのだと学んだ。

私は静かに尿を便器の水へ入水させる方法を探すことを決めた。
安心して用を足せたあの日々を取り戻すために。


どうか、トイレで電話に出るのだけはおやめください。


私がこのブログを通じて世界へ発信したいことはただ1つ。この一行に全て託す。